2025/04/02

EUR/JPYのファンダメンタル分析と為替レートの3ヶ月後予測

1. エグゼクティブサマリー

本レポートは、2025年4月1日に行った、EUR/JPY通貨ペアのファンダメンタル分析を行い、今後3ヶ月間の為替レートの変動範囲を予測することを目的としています。 分析では、ユーロ圏と日本の最新の経済状況、金融政策、経済政策、そしてウクライナ危機とガザ地区での紛争を含む地政学的な影響を詳細に検討しました。 主な結論として、ユーロ圏経済は緩やかな成長が見られるものの、主要国間でのばらつきが大きく、インフレは低下傾向にあるもののECBの目標水準を上回っています。 一方、日本経済は緩やかな回復基調にあり、インフレは上昇していますが、消費者信頼感は依然として低い水準にあります。 金融政策においては、ECBは利下げサイクルに入っており、一方の日銀は金融政策の正常化に向けて慎重に進んでいます。 地政学的な緊張は、安全資産である円への需要を高める可能性があります。 これらの要因を総合的に考慮し、今後3ヶ月間のEUR/JPY為替レートの変動範囲を1ユーロ=158円から168円と予測します。

2. ユーロ圏の経済ファンダメンタルズ

2.1. 現在の経済状況

経済成長:

2024年第4四半期において、ユーロ圏のGDPは前期比で0.1%増、EU全体では0.2%増となりました1。 前年同期比では、ユーロ圏で1.2%、EUで1.4%の成長を示しています1。 国別に見ると、アイルランドが前期比3.6%増と最も高い成長率を記録し、デンマークとポルトガルがそれに続きました。 一方で、マルタ、オーストリア、ドイツ、フィンランドではGDPが減少しています。 速報値では、2024年第4四半期のユーロ圏GDPは横ばい、EUでは0.1%増と報告されており2、ポルトガル、リトアニア、スペインが比較的高い成長を示し、アイルランド、ドイツ、フランスが減少しています。 その後、改定された数値では、ユーロ圏経済は2024年第4四半期に前期比0.2%成長しており、これは速報値の0.1%よりも上方修正されています。 成長の主な要因は家計支出の増加(0.6%増)であり、政府支出も0.9%増、投資は0.6%増となりました。 しかし、ドイツとフランスというユーロ圏の二大経済国ではGDPがそれぞれ0.2%と0.1%縮小しています。 年間成長率で見ると、2024年第4四半期のユーロ圏GDPは前年比で1.2%増加しており、これは当初の予測である0.9%を上回り、前期の1.0%成長から加速しています。 この成長は、借入コストの低下とインフレ圧力の緩和に支えられています。 家計消費は1.5%増、政府支出は2.8%増となりましたが、固定投資は2.1%減と落ち込んでいます4。 これらのデータから、ユーロ圏経済は全体として緩やかな成長を続けているものの、加盟国間、特に主要経済国間での成長のばらつきが大きいことが示唆されます。 借入コストの低下が消費を支える一方で、主要国の景気停滞が全体的な成長の足かせとなる可能性も考えられます。

インフレ:

ユーロ圏のインフレ率は低下傾向にありますが、依然として高い水準にあります。 2025年3月のユーロ圏の推定インフレ率は2.2%で、2月の2.3%からさらに低下しています。 主要な構成要素別に見ると、3月にはサービス部門のインフレ率が3.4%と最も高く、次いで食料品、アルコール、タバコが2.9%、非エネルギー工業製品が0.6%で安定、エネルギーが-0.7%となっています。 2024年12月の年間インフレ率は2.4%で、11月の2.2%から上昇しています。 国別に見ると、2025年3月にはクロアチア、エストニア、スロバキアが4.3%と最も高く、フランスが0.9%と最も低いインフレ率となっています。 2025年2月のインフレ率は2.3%で、前月の2.5%から低下しています。 コアインフレ率は2025年2月時点で2.6%であり、1月の2.7%からわずかに低下しています。 これらのデータは、ユーロ圏のインフレがピーク時から緩和しているものの、依然としてECBの目標である2%を上回っていることを示しています。 特にサービス部門のインフレは根強く、賃金の上昇や過去のインフレの影響が遅れて現れている可能性が考えられます。

失業率:

ユーロ圏の労働市場は比較的堅調です。 2025年2月のユーロ圏の季節調整済み失業率は6.1%で、2025年1月の6.2%から低下し、2024年2月の6.5%からも改善しています。 EU全体の失業率も2025年2月には5.7%となり、1月の5.8%から低下、2024年2月の6.1%からも改善しています。 ユーロスタットの推計によると、2025年2月にはEUで1267万7千人、ユーロ圏で1058万人が失業しています。 これは、2025年1月と比較してEUで13万1千人、ユーロ圏で7万人減少しています。 若年層(25歳未満)の失業率は、EUでは2025年2月に14.5%と1月から低下しましたが、ユーロ圏では14.2%と前月から上昇しています。 これらのデータは、ユーロ圏の労働市場が全体として改善傾向にあるものの、若年層の失業問題は依然として課題であることを示唆しています。

消費者信頼感:

ユーロ圏の消費者信頼感は低下傾向にあります。 2025年3月の欧州連合(EU)の消費者信頼感指数は-13.90で、2月の-12.90から低下しています。 ユーロ圏の消費者信頼感指数も2025年3月には-14.5となり、2月の-13.6から低下し、3ヶ月ぶりの低水準となっています。 欧州委員会が発表した3月の経済信頼感指数(ESI)も、EUで96.0、ユーロ圏で95.2と低下しており、これは長期平均の100を下回っています。 雇用期待指数(EEI)も同様に低下しています。 これらの指標は、ユーロ圏の消費者が経済の先行きに対して悲観的な見方を強めていることを示唆しています。 インフレ、経済成長の鈍化、地政学的な不確実性などが、消費者心理を悪化させている可能性があります。

2.2. ECBの金融政策レビュー

最新の政策金利決定と声明:

欧州中央銀行(ECB)は2025年3月6日の理事会において、主要政策金利を25ベーシスポイント引き下げることを決定しました。 これにより、預金ファシリティ金利は2.50%、主要リファイナンス金利は2.65%、限界貸付ファシリティ金利は2.90%となりました。 この決定は、最新のインフレ見通し、基礎インフレの動向、および金融政策の波及効果に関する評価に基づいています。 ECBは、インフレ抑制のプロセスは順調に進んでおり、最新のスタッフ予測は以前の見通しとほぼ一致していると評価しています。 スタッフは、2025年のヘッドラインインフレ率を平均2.3%、2026年を1.9%、2027年を2.0%と予測しています。 エネルギーと食料品を除いたインフレ率については、2025年を2.2%、2026年を2.0%、2027年を1.9%と予測しています。 ECBは、多くの基礎インフレ指標が、中期的な目標である2%近辺で安定すると示唆していると指摘しています。 国内インフレは依然として高いものの、賃金の伸びは予想通りに緩やかになっており、企業の利益がインフレの影響を部分的に吸収しているとしています。 今回の利下げにより、金融政策は著しく緩和されており、企業や家計にとって新規借り入れのコストが低下し、融資の伸びが回復しつつあるとECBは見ています。 ECBは、インフレ率が中期的に持続的に2%の目標で安定するように努める決意を表明しており、特に不確実性が高まっている現状においては、データに基づき、会合ごとに適切な金融政策のスタンスを決定するアプローチをとると強調しています。 今回の利下げは、ECBが2024年6月に利下げサイクルを開始して以来6回目となります。

今後の金融政策の方向性に関する市場の予測:

市場はECBが今後も利下げを継続すると予測しています。 ロイターの最新調査によると、「ECBは次の四半期にさらに50ベーシスポイントの利下げを行い、その後少なくとも2026年までは金利を据え置く」とされています。 市場は年末までに預金ファシリティ金利が2.00%になると完全に織り込んでいます。 ECBは、金融政策の見通しについて慎重な姿勢を維持すると予想されており、金利に関して特定の経路にコミットしないと繰り返し述べています。 しかし、ECBが「制限的な」政策の文言を大幅に変更した場合、市場はそれをタカ派的な転換と捉え、ユーロの上値を押し上げる可能性があります。 ECBのラガルド総裁は、記者会見で利下げの決定について説明し、経済の安定を支援する役割を強調しました。 ECBは、経済状況に関する最新のデータに細心の注意を払いながら、会合ごとに政策を決定するデータ依存型のアプローチを継続すると見られています。

2.3. ユーロ圏で実施または検討されている主要な経済政策

財政政策:

ユーロ圏では、財政の持続可能性を強化し、公共投資を促進することを目的とした新たな財政枠組みが2024年4月に更新されました。 この枠組みでは、各国はGDP比60%以下の公的債務を維持または段階的に削減し、GDP比3%の財政赤字制限を遵守することが求められています。 EU各国は、これらの目標をどのように達成するかを示す中期財政構造計画(MTFSP)を提出する必要があります。 多くのEU諸国のMTFSPは欧州委員会によって承認されており、財政健全化を進めながらも公共投資の増加が見込まれています。 しかし、計画されている財政調整が大きい国ほど、公共投資の削減幅も大きくなる傾向が見られます。 ドイツ政府は歴史的に厳格な財政ルールを支持してきましたが、近年、防衛、インフラ、気候変動対策への公共支出を大幅に増加させるという歴史的な転換を行いました。 この新たな財政戦略は、GDP比60%超の債務を7年以内に削減することを求めるEUの規則と直接的に矛盾する可能性があります。 一部からは、新たな財政ルールが公共投資を過度に制約するのではないかという懸念も表明されており、そのような投資を促進するための新たなEU基金の創設が提唱されています。 2024年のユーロ圏全体の景気調整後の財政状況は改善が見込まれていますが、パンデミック前の水準を大幅に下回っています。 2024年の安定成長協定改革は緊縮財政を強化し、投資を抑制するものであり、ヨーロッパの経済衰退を逆転させるためには新たな欧州委員会の対応が求められています。

構造改革:

ユーロ圏では、経済通貨同盟(EMU)の円滑な機能を確保するために、財、資本、労働市場における競争を阻害する障壁を取り除き、市場の柔軟性を高める構造改革が不可欠とされています。 これらの改革は、ユーロ圏の生産性と雇用を向上させ、長期的な成長潜在力を支える上で重要です。 同時に、競争を促進し、イノベーションを育成することで、物価上昇圧力を緩和する効果も期待されます。 EU首脳会議(欧州理事会)は2000年3月に、ヨーロッパ市民の生活水準を向上させることを目指し、経済、社会、環境に関する広範かつ野心的な改革プログラムを開始しました。 リスボン戦略として知られるこの戦略は、高い社会的結束と環境の持続可能性を維持しながら、欧州連合を競争力が高く知識に基づいた経済に変革することを目標としていました。 2011年には、競争力と雇用を促進し、公共財政の持続可能性をさらに高め、金融の安定を強化することを目的としたユーロプラス協定がユーロ圏の首脳によって合意されました。 OECDの調査によると、ECBによる予期せぬ金融緩和は、ユーロ圏における構造改革の可能性を大幅に高めることが示されています。 金融緩和は、改革の短期的なコストを軽減し、政府の政策余地を拡大することにより、改革を促進する可能性があります。 欧州評議会は、EU加盟国が持続可能な経済的・社会的成長を達成し、制度を強化し、グリーンおよびデジタルへの移行を促進するための共同プロジェクトをEUと協力して実施してきました。 しかし、BusinessEuropeの報告によると、EUの単一市場の完成に必要な措置を含む構造改革の実施は、過去数年間停滞しており、一部では後退さえ見られます。 政府は、ヨーロッパ経済を強化し、社会的公平性を促進するために改革を実施する必要があります。 ドイツ連邦銀行の分析によると、構造改革は、労働市場や製品市場の柔軟性を高めることで、金融政策措置の波及を促進する可能性があります。

3. 日本の経済ファンダメンタルズ

3.1. 現在の経済状況

経済成長:

日本経済は緩やかな回復基調にあります。 2023年のGDP成長率は1.92%でした。 2024/25年度(2024年4月~2025年3月)の経済成長率は0.3~0.4%と見込まれていますが、2025/26年度には1.1~1.2%の成長が予測されています。 Vanguardの見通しでは、2025年末の経済成長率を前年比1.2%と予測しており、賃金上昇の勢いが個人消費の回復を支え、トレンドを上回る成長を後押しすると見ています。 ただし、2024年第4四半期のGDP成長率は年率換算で2.2%と、当初の推計よりも大幅に減速しています。 2024年第4四半期のGDP成長率は前期比0.6%(年率換算2.2%)であり、3四半期連続の成長を記録しています。 民間消費は若干下方修正されたものの横ばいでしたが、設備投資は0.6%増加しました。 長期的な予測では、日本のGDP年間成長率は2026年に0.70%、2027年に0.80%程度で推移すると見られています。 これらのデータは、日本経済が緩やかな回復傾向にあるものの、成長の勢いは依然として限定的であることを示唆しています。 賃金上昇が消費を支える一方で、世界経済の不確実性や米国の関税引き上げの可能性などが、成長の足かせとなる可能性があります。

インフレ:

日本のインフレ率は上昇傾向にあります。 2025年2月のインフレ率は3.70%で、1月の4.00%から低下しましたが、前年同月の2.80%からは上昇しています。 別のデータでは、2025年2月のインフレ率は3.6%と報告されています。 2023年の年間インフレ率は3.27%でした。 生鮮食品を除くコアインフレ率は、2025年2月時点で3.00%であり、1月の3.20%から低下しています。 2025年1月には、総合インフレ率が4.0%、コアインフレ率が3.2%に加速していました。 これらのデータは、日本のインフレ率が日本銀行の目標である2%を大幅に上回る水準で推移していることを示しています。 輸入物価の上昇や賃金の上昇などが、インフレの要因として考えられます。

失業率:

日本の労働市場は非常に堅調です。 2025年2月の全国失業率は2.4%で、1月の2.5%から0.1ポイント低下しました。 季節調整後のデータでは、5ヶ月ぶりの改善となります。 就業者数は6768万人で、前年同月比40万人増と31ヶ月連続で増加しています。 産業別に見ると、医療・福祉サービス業で23万人増、宿泊・飲食サービス業で21万人増となっています。 一方、失業者数は前年同月比12万人減の165万人です。 求人倍率は2月に1.24倍となり、前月の1.26倍からわずかに低下しています。 これらのデータは、日本の労働市場が依然として逼迫しており、雇用情勢は安定していることを示唆しています。

消費者信頼感:

日本の消費者信頼感は低い水準で推移しています。 2025年2月の消費者態度指数(季節調整値)は35.0で、1月の35.2から低下し、前年同月の39.0からも低下しています。 季節調整前の指数は2025年2月時点で34.7であり、1月の34.8からわずかに低下しています。 消費者態度指数は50を下回ると消費者の自信喪失を示すとされています。 これらのデータは、日本の消費者が経済の先行きに対して依然として慎重な見方をしていることを示唆しています。

3.2. 日銀の金融政策レビュー

最新の政策金利決定と声明:

日本銀行は2025年1月の金融政策決定会合において、政策金利を0.25%引き上げ、0.5%とすることを決定しました。 これは、持続的・安定的な2%の物価安定目標の達成が見込まれる可能性が高まっているとの判断に基づいています。 しかし、3月の金融政策決定会合では、政策金利は0.5%で据え置かれました。 日銀は、米国の新たな貿易政策が世界市場に与える影響を見極めるため、慎重な姿勢を示しています。 3月の会合の意見概要によると、一部の委員はインフレがやや予想を上回っているとの見解を示しています。 植田和男総裁は、食料品価格の高騰が広範なインフレを引き起こす場合には、金融引き締めを検討する可能性があると述べています。 日銀は、経済・物価情勢の見通しが実現すれば、政策金利の引き上げと金融緩和の調整を継続する方針を示しており、データに基づいた柔軟な対応を重視しています。 次回の金融政策決定会合は5月1日に予定されています。

今後の金融政策の方向性に関する市場の予測:

市場は、日本銀行が今後も金融政策の正常化に向けて段階的に利上げを進めると予想しています。 2025年にはさらに37ベーシスポイントの利上げが行われるとの見方が強まっています。 日本国債10年物の利回りは2010年以来の高水準に上昇しており、投資家のセンチメントの変化を示唆しています。 日銀の政策金利は依然として他の先進国と比較して低い水準にありますが、市場は、賃金上昇と消費者信頼感の改善が、政策当局による短期金利の段階的な引き上げを後押しすると見ています。 ただし、米国の政策が日本経済に与える影響については不確実性も指摘されており、日銀は慎重な姿勢を維持すると予想されています。

3.3. 日本で実施または検討されている主要な経済政策

財政政策:

日本の財政状況は依然として厳しい状況にあります。 2024年度の財政赤字は、一部の経済対策パッケージの段階的な廃止にもかかわらず、GDP比3.6%に拡大すると予測されています。 これは、一時的な所得税減税による歳入の減少や、前年度からの繰越収入の減少、13.9兆円の補正予算による支出の増加などが要因です。 公的債務残高は、COVID-19パンデミック中に大幅に増加した後、着実に減少していますが、2024年度末にはGDP比240.6%と依然として高水準にあります。 2025年度の予算は過去最高の115.5兆円に達し66、社会保障費や国債費が増加しています。 防衛費も安全保障環境の悪化に対応して大幅に増加しています。 一方で、歳入も過去最高を更新する見込みであり、新規国債発行額は減少する見通しです。 国際通貨基金(IMF)は、2024年の日本の財政赤字は予想よりも小さいものの、2025年には防衛費や児童関連対策費、産業政策費の増加により若干拡大すると予測しています。 政府は、成長に優しい公共支出の構成への転換や、エネルギー補助金などの的を絞らない補助金の廃止、社会保障支出の効率化などを検討する必要があります。 歳入面では、高所得者層への金融所得課税の強化、固定資産税の控除の見直し、消費税率の統一と段階的な引き上げなどが選択肢として挙げられています。

構造改革:

日本経済の長期的な課題に対処するため、構造改革の必要性が認識されています。 日本銀行の包括的な金融政策レビューでは、デフレ思考の根強さや、人口減少とグローバル化の課題が指摘されています。 内閣府の報告書では、少子高齢化、非効率な資源配分、過剰な規制などが日本経済の低迷の根本的な原因であると分析されており、公共部門の改革や市場メカニズムの活用が求められています。 政府は、貯蓄から株式投資へのシフトを促す税制の見直し、公正取引委員会の機能強化、放送と通信の融合、ITモデル地域の創設など、様々な分野での改革を計画しています。 また、社会保障番号制度や個人社会保障口座の導入、持続可能な年金制度の確立、医療サービスの効率化なども検討されています。 地方の自主性を高め、民間部門のノウハウを活用した地域活性化も重要な課題です。 元財務官の榊原英資氏は、日本経済を活性化するためには、政治、官僚、既得権益団体の「鉄の三角形」を打破し、広範な構造改革を断行する必要があると主張しています。 過去の経済成長の成功要因としては、第二次世界大戦後の荒廃からの復興、政府による産業政策、高い貯蓄率、質の高い労働力などが挙げられます。 しかし、人口減少やグローバル競争の激化といった新たな課題に対応するためには、さらなる構造改革が不可欠です。

4. EUR/JPY為替レートへの地政学的な影響

4.1. ウクライナ危機:

ウクライナ危機は、ユーロ圏と日本経済に複合的な影響を与えています。 ユーロ圏では、停戦が実現すれば、防衛費の増加などを通じて短期的にGDP成長を押し上げる可能性がありますが、ウクライナ難民の帰還は成長を抑制する要因となり得ます。 戦争によるエネルギー価格の高騰、サプライチェーンの混乱、不確実性の増大は、ユーロ圏の経済成長見通しを下方修正させ、インフレを加速させ、企業の収益性を悪化させる可能性があります。 特に、地理的にウクライナに近い国や、ロシア産ガスへの依存度が高い国では、その影響がより顕著です。 日本経済も、原油やその他の商品価格の上昇により悪影響を受けており、スタグフレーションのリスクが高まっています。 しかし、円は当初安全資産として買われる動きを見せ、株価は比較的安定していました。 日本はロシアからの液化天然ガス(LNG)の供給源を多様化しています。 日本は防衛費を増額し、対ロシア制裁において米国やEUと協調しており、エネルギーや食料安全保障への影響に注力しています。 ウクライナ危機は、安全資産としての円への需要を高め、ユーロに対して円高の圧力を加える可能性があります。 しかし、停戦が実現し、ヨーロッパへのガス供給が再開されれば、ユーロを支える要因となる可能性もあります。

4.2. ガザ地区での紛争:

ガザ地区での紛争は、主に地域の人道危機ですが、その影響は世界経済、特にエネルギー市場を通じてユーロ圏と日本にも及ぶ可能性があります。 紛争の激化は、エネルギー価格の急騰、食料価格の上昇、金利の上昇を引き起こし、ユーロ圏のスタグフレーションを長期化させ、ユーロ安につながる可能性があります。 日本は中東からの石油輸入に大きく依存しており、地域情勢の不安定化は日本のエネルギー安全保障に直接的な影響を与えます。 紛争が拡大し、中東からの石油供給が途絶えるような事態になれば、エネルギー価格が急騰し、ユーロ圏と日本経済に悪影響を及ぼす可能性があります。 このような地政学的な緊張の高まりは、金融市場におけるリスク回避の動きを強め、安全資産である円への需要を高める可能性があります。

5. 比較分析とEUR/JPYの展望

5.1. 相対的な経済および政策スタンス:

ユーロ圏経済は緩やかながらも不均一な成長、低下傾向にあるものの高水準のインフレ、徐々に改善する労働市場、そして低下する消費者信頼感という特徴があります。 ECBは利下げサイクルに入っています。 一方、日本経済は緩やかな回復、目標を上回るインフレ、逼迫した労働市場、低迷する消費者信頼感が見られます。 日銀は慎重ながらも金融政策の正常化に着手しています。 両地域とも地政学的なリスクに直面しています。 ECBの緩和的な金融政策スタンスと日銀の慎重な正常化への動きの対比が、EUR/JPYの動向を左右する主要な要因となる可能性があります。 両地域の相対的な経済成長力とインフレ見通しも重要な役割を果たすでしょう。

5.2. EUR/JPY為替レートの予測(今後3ヶ月間):

上記の包括的なファンダメンタル分析に基づき、今後3ヶ月間のEUR/JPY為替レートは、ECBによる継続的な利下げの可能性と日銀による緩やかな金融引き締め、そしてウクライナ危機とガザ地区での紛争による地政学的な不確実性の高まりという、相反する力が作用すると考えられます。 リスク回避の動きが強まれば円高方向に、ユーロ圏の経済指標が改善したり、ECBがよりタカ派的な姿勢を示したりすればユーロ高方向に動く可能性があります。 これらの要因を総合的に考慮すると、今後3ヶ月間のEUR/JPY為替レートは、1ユーロ=158円から168円の範囲で変動すると予測されます。

6. 結論

本レポートのファンダメンタル分析の結果、EUR/JPY為替レートは、ユーロ圏と日本の経済状況、金融政策、そして地政学的な要因によって大きく左右されることが明らかになりました。 ECBの利下げ継続が見込まれる一方、日銀は金融政策の正常化を慎重に進めることが予想されます。 ウクライナ危機とガザ地区での紛争は、市場の不確実性を高め、安全資産である円への需要を支える可能性があります。 今後3ヶ月間のEUR/JPY為替レートは、これらの要因が複雑に絡み合い、1ユーロ=158円から168円の範囲で変動すると予測されます。 トレーダーや投資家は、両地域の経済指標、中央銀行の声明、そして地政学的な動向を注視し、慎重な取引戦略を立てる必要があるでしょう。

主要経済指標

指標 ユーロ圏 (最新) 日本 (最新)
経済成長率(前期比) 0.1% (2024年Q4) 0.6% (2024年Q4)
経済成長率(前年同期比) 1.2% (2024年Q4) 1.2% (2024年Q4)
インフレ率(総合) 2.2% (2025年3月) 3.7% (2025年2月)
インフレ率(コア) 2.6% (2025年2月) 3.0% (2025年2月)
失業率 6.1% (2025年2月) 2.4% (2025年2月)
消費者信頼感指数 -14.5 (2025年3月) 35.0 (2025年2月)

主要政策金利

中央銀行 金利の種類 現在の金利
ECB 預金ファシリティ金利 2.50%
ECB 主要リファイナンス金利 2.65%
ECB 限界貸付ファシリティ金利 2.90%
日銀 政策金利 0.50%


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